ちょっとしたミスリードによる衝撃―TARI TARI 5話の坂井和奏の回想シーンから

TARI TARI 5話視聴


音楽と距離を置く少女、坂井和奏の過去の話となった5話。展開自体はよくある話かな、と思うが、ここまで律儀に見続けてきた視聴者にとって、予想だに出来なかった要素はあるんじゃないだろうか。―そう、和奏の母親である、まひるの他界した時期である。まひるが既に他界している事は劇中でも明らかにされていたが、実はまひるが亡くなったのは、和奏が中学3年生の受験生の時期であったというのは、想像できた人はいないだろう。というのも、回想シーンでまひるが出てくる場面では、和奏はいつも幼かったからである。それと少し強引かなとも思うが、第1話の序盤で描かれた、坂井家の日常のシーンが大きい。父子家庭というのが実に自然に見えた。和奏は家事に手馴れていたし、何処か頼りないお父さんがしっかり者の娘にドヤされるというシチュエーションが、この父娘が共に過ごしてきた時間の長さを感じさせるのに充分だったからだ。話題にもなったニコニコ動画を使った演出等、ここのスタッフは中々ミスリードというか、細かい伏線を用意してくる事が好きなようだ。今の所、その伏線が話に上手い具合にハマっているのは素晴らしいと思う。

親を亡くす時期で一番辛いのはどの時期か?と考えると(まあ実際どの時期でも辛いと思うのだが)、それは親と子の最も距離が離れている思春期ではないかなと思う。親の存在がうっとうしいと思うのは、『親が居る事が当たり前』の裏返しでもある。その当たり前が当たり前でなくなるのだから、ショックはそこはかとなくデカい。奇しくも、和奏は最も多感な時期に母親を失う事になってしまった。しばらく音楽科に在籍していた事を考えると、当初は母親の為にも音楽を頑張ろう、あるいはショックを引きずって、そのままダラダラと日常を過ごしていたのかもしれない。どちらにしろ、母親を失った悲しみは、普通科に転科する事で、音楽から距離を取る事で、彼女はケジメをつけた。ラストで和奏が母の死を知って、泣き崩れるシーン。彼女のポケットから見えていたのは、かつて母が作ってくれたお手製のクジラマスコットだった。最後に交わした言葉・態度が、まひるを傷つけるものでしかなかったと感じていた和奏にとって、彼女のまひるへの本音が見て取れる見事な演出だった。



紗羽の母親である志保との会話で、志保が白浜坂高校のOGである事が告げられた。同時にまひるの後輩であった事も。余談だが、ここでOPでまひると思わしき女子と仲良くしていたのが、あの教頭だったという事も同時に判明する。元々志保は和奏が紗羽に家に招かれて会った時に、彼女の事を知っていた素振りを見せているので、まひると繋がりがあったのは、この時点で推測できる事ではあった。志保自体はまひるの後輩としか告げなかったものの、志保から手渡された合唱部の写真をよく見て見ると、右の方に志保らしき人物が映っているので、合唱部でまひると教頭と共に合唱の練習をしていたのではなかろうか。(彼女は他人事のように話していたが)ついでに左の方には、当時の顧問と思われる現校長の姿が映っているので、まひるが校長の教え子だったというのはこの時点で判明する。ちょっとしたシーンから細かい伏線が張られたり、解消されたりしており、ストーリーテリングの巧みさを伺わせる。

色々細かい所にまで気を遣っているのは分かるのだが、唯一気になるのが、他の論客さんも指摘していたけども、馬に関する知識がうーんと思わせる箇所が多い。紗羽が何度も馬に乗っている姿を見かけるが、彼女がズボンを着用していないのが、気になってしょうがない。普通厚手のズボンを履かないと、擦れてしまい、肌が傷つくんだけどなあ。騎手を目指すにしては体格が大柄すぎやしないか!?という意見もあったが、170センチで騎手になった武豊の例もあるので、そこは別にいいんじゃないかと思う。ただ考証に関しては底の浅さを感じるのは確か。アニメだから突っ込むのは野暮なんだけど、全体的に丁寧な作りなんで、ちょっと違和感を感じてしまうのが勿体無い。