飛び出したり、誘ったり、集ったり、あがいたり

TARI TARI』2話で完全に化ける。1話の時点でも個人的には面白かったと思うのだけれど、2話で更に評価を上げてきたかなと思う。 音楽の価値観に対して極端に食い違う、和奏と来夏の対比を1話で行い、音楽に関して特別な思い入れを持たない紗羽が間に入る事で、2人のギクシャクとした関係を取り持ち、来夏の音楽に対する真剣度合いを知った和奏が徐々に態度を軟化させていくという展開がベタだけど面白かった。来夏が最初はメインというのも、パワーがあるキャラなので、良かったと思う。思えばこの3人音楽に対する向き合い方がそれぞれ違うのだが、実は制作側の方でそれを強調するような仕掛けを行っている。PVで使われていたキャラクターのキャッチコピーがそうだ。


―音楽と距離を置く少女 坂井和奏
―音楽に愛されたい少女 宮本来夏
―音楽とまだ出会ってない少女 沖田紗羽

1話、2話では音楽に愛されたい少女、来夏の物語だった。歌う事が何よりも好きで、音楽を愛していた。 所が彼女のその想いは教頭によって否定されてしまう。

音楽を愛する事は誰にでも出来る。しかし音楽から愛されるのは― 人の心を動かすには特別な何かが必要なのです。貴方にはそれがない

高校生にぶつけるにしては非常に厳しい言葉。ましてや来夏は声楽科ではなく、普通科の生徒である。声楽科の人間は将来その道に進む為に、高校生といえども、音楽に対して真摯に向き合う事は避けられないが、来夏のようにただ音楽が好きという人間にこの返答は正論とはいえ、ちょっと可哀想なぐらいでもある。来夏はこの回答に激怒するが、自分が今後も歌えないという事に腹が立ったのではなく、自分が愛したい音楽をお前では愛されない。無理だと決め付ける教頭の態度がお気に召さなかったという面の方が強い。

教頭は音楽を通じて人を楽しませるという事を第一に考えているのだが、来夏の場合は自分自身が音楽を楽しむという事を第一に考えている。 これはお互いの立ち位置もあるので、どちらが正しいというわけではない。ただ音楽に対する考え方の違いというのは後のシーンでも使われ、来夏を苦しめる。

来夏にとって音楽を愛するという行為は、自分が楽しく音楽と向き合う事だった。声楽部を辞め、合唱部を立ち上げ、友人である紗羽の助けも借りながら、自分にとっての音楽を作り出そうとして、元声楽科の和奏に声をかけるが、会話の末にまたも自分の音楽への価値観に悩まされる事となる。


『今更歌ったって・・・・楽しめるわけがない』

『どうして?楽しいフリをしてれば楽しくなるかも!』

ここに前述した2人の価値観の違いが亀裂を生んでいる。和奏にとっての音楽はまだ物語では触れられてないので、彼女の音楽に対する考え方というのは、具体的には分からない。ただ音楽と距離を置くというコピーを念頭に置くと、少なくとも彼女にとって音楽とは好意的な感情を持てないものなのだろう。音楽に愛されたい少女来夏にとって、この返答は予想外であった。その考え方が理解できない来夏は音楽の楽しさを説き、遂には和奏の逆鱗に触れてしまう。

『じゃあ、何?何で歌ってるの?』

『え・・・それは・・・・・・。でも、楽しんでるから、真剣じゃないって事はないでしょう!?』

来夏はここで初めて言葉を詰まらせる。何で歌ってるの?という返答に対し、彼女は好きだからと答えればよかったのに、それをしなかった。 来夏にとって、歌う事は一体何なのか。この問いは、はっきりと答えを言う事が出来なかった彼女にとって心にしこりを残す結果となった。


合唱部の初の晴れ舞台である発表会。この日に備えて、来夏は部員を揃えたり、校長に許可を取ったり、歌う曲を懸命に探したり、発表まで必死に練習を行ったりしていた。しかし準備万端で迎えたはずの発表会でアクシデントが起こる。引率として来るはずだった校長の怪我、バスに乗って会場入りするはずだった、部員達の遅れ。歌う事が出来る人間が、来夏と紗羽の2人だけという事態に、来夏はすっかり意気消沈してしまう。だが紗羽は彼女に対してこう一喝する。

『あんた、これだけの人を巻き込んでおいて、何もしないで帰る気!? 悔いはないの!? もう次はないんだよ!』

以前和奏に『何もしないで、諦めて、後悔したくないから!』と啖呵を切った来夏にこの言葉は突き刺さったに違いない。 ここまでやってこれたのは自分の力だけではなかった。紗羽には和奏と仲良くするきっかけを作ってもらい、弓道部と掛け持ちでサポートしてくれた、和奏も当初は名前だけ貸すと言う約束だったのに、それを超えて助けてもらった。色々な人が自分に協力してくれた。自分が楽しければ良いという漠然とした考えを持ち続けていた来夏は、和奏にこう告げて、舞台に向かう。

『坂井さん、色々ありがとう。この前の答え探してくるね』


音楽に愛されたい少女は、愛されるきっかけを掴もうとして今あがいているのかもしれない。 教頭が校長代理になる等、合唱部にとって未だ逆風は続く。 今後、和奏、来夏、紗羽が(+野郎2人が)どう音楽に向き合うのか。その描き方が非常に楽しみ。


※余談ですけど、OPを見て今更気付いたんですが、和奏の母と教頭って同級生で親友っぽいですよね。で共に音楽の勉強頑張ってた感じで。 校長が和奏の名前を見て態度を変えたのも、彼女の才能うんぬんよりも、かつての教え子の娘として、思う事あったんじゃないかなあと妄想。 来夏が教頭に見せた曲も、その和奏の母親と教頭が昔作った作品だったりして。