大長編ドラえもんの凄さ

“原体験"としての大長編ドラえもん

昨季のアニメが終わったので、この記事に影響されて、ドラえもん映画を見始めた。

ドラえもん大長編の魅力として挙げられているひみつ道具の柔軟さという考えには恐れ入った。確かに大長編はドラえもん達が危機的状況に遭うことが多く、彼らはそれを突破するために、ありとあらゆる道具の使い方を模索し始める。特にリンク先で語られているように、『のび太の大魔境』で終盤、ドラえもん達が敵に追い詰められ、大ピンチになるのを見ていられなかったしずかちゃんが『先取り約束機』を使って、未来のドラえもん達を派遣して、現代のドラえもん達を救援するという発想は本当に子供向けなのか?と今考えると驚愕する。他にも魔界大冒険で魔王の心臓をビッグライトで大きくして効果を増大させるドラミちゃんのさりげないフォロー、銀河超特急でのび太の天帝を誘い出す一連の行動等、ドラえもん達は知恵を振り絞って、ありとあらゆる危機を乗り越えてきた。中には力まかせというのもあったが、そういった部分も含めて、ドラえもん映画は魅力的だと感じる。

だが何も頭が回るのはドラえもん達だけではない。宇宙小戦争はドラえもん達の敵として登場してくるドラコルル。ドラえもん史上一番頭のきれる悪役と言ってもいいキャラであり、ドラえもん達の考えた作戦を悉く見破り、利用してきた強敵だった。宇宙小戦争でスネ夫が考案した『ラジコン戦車機』敵のレーザー攻撃を無効化出来るドラえもん達の最強の切り札として登場したが、実はアンテナ部分に弱点がある事を終盤で敵に見破られてしまう。これの弱点が見破られた経緯というのが実に見事で、ドラえもん達が惑星ピリカに突入した際、この戦車機を使ったのだが、途中でドラえもん達はピリカの監視線から逃れる為、ひみつ道具で自分達の姿を消し、目立つ戦車は地中に深く沈めた。後にドラコルルはドラえもん達が消えた付近を捜索し、この戦車を掘り当て、弱点を科学者と共に徹底的に追求した。そして、ドラえもん達を追って、ピリカにラジコン戦車機で突入したスネ夫達を見事に撃墜して見せた。スモールライトの制限時間がなければドラえもん達が完全に負けていたこの試合。宇宙小戦争は子供向けとは思えないほどのドラえもん達とドラコルルの駆け引きが一種の見所であった。

だがひみつ道具以外にドラえもん大長編のウリと言えば、やはり世界観の濃密さだと僕は思う。『魔界大冒険』で出来杉のび太に語る『魔法』の話のくだりは最早小学生向けにしては、明らかに本格的な説明になっているし、『アニマル惑星』での動物達の惑星が出来た歴史も面白い。この設定も単にアニマル惑星の話を補完するだけでは無く、後にドラえもん達がアニマル惑星から脱出する際のてがかりとしても使われているのは凄い!としか言いようが無い。他にも『創世日記』『日本誕生』『海底鬼岩城』と主にドラえもんが語り手となって、知識を披露する場面が実に多いが、明らかに子供向けとしては逸脱しているのが多いものの、説明としては凄く分かりやすいのが多い。これは勿論藤子・F・不二雄先生の手に拠るものであるのは間違いない。これだけ子供向けとは思えない特徴を持ちながらも、子供でも楽しめる作品を作ってしまったという所に、ドラえもん映画の素晴らしさが伺える。

ちなみに僕の中でベストシーンを挙げるとすれば、『アニマル惑星』での脱出劇、『宇宙小戦争』でのピリカ突入劇、『海底鬼岩城』での鬼岩城突入劇といった所が結構好き。ただやっぱり一番は『ドラビアンナイト』で熱中症で倒れてしまったのび太を優しく看病するドラえもん達の姿。ドラビアンナイトはしずかちゃんが酷い目にあったり、ドラえもん達もポケットを奪われて、砂漠を横断させられたりと散々な目に遭う話だが、決してめげないで、創意工夫しながらしずかちゃん奪還を目指すドラえもん達の姿に心を揺さぶられる。しずかちゃんと再会した辺りからは少しパワーダウンも感じるのだが、それでも中々の良作。もし見たことないという人がいたら、是非見て欲しい。

子供でも大人でも楽しめる『ドラえもん映画』。きっと僕はおじいちゃんになっても、ドラえもん映画の魅力にとりつかれたままなのだろう。