これこそ、『高校生』を描いた作品

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竹宮ゆゆこ先生の最新作『ゴールデンタイム』を発売した事を記念して、『とらドラ!』なんぞを見返してみたり。

この作品、魅力を挙げるとすれば、登場人物の感情の裏表がしっかり描かれている事。そしてその裏表が作品のテーマに深く関わっているという事でしょうか。 最初から、本音全開だった大河以外、本音を表に出す事をしなかった傍観者の立ち位置の人物が、高校生のイベントを経ていくうちに、次々と動き出していく様は圧巻です。 前半が大河を中心としたハチャメチャラブコメディだったのに対し、後半からはそれぞれの登場人物が自分の感情に素直に向き合い、話が次第にシリアスな展開へと移行していきます。 リアルすぎる高校生活とも形容されるこの作品ですが、従来の学園ラブコメとは違い、大人になりきれない、若さゆえの甘えや暴走を余すことなく描ききっているのが、好評を博したのだと思います。

大人ぶっていても、自分達の本音を上手く隠しているつもりでも、そこはまだ高校生。綻びが出てきて、そこから上辺の空気が出来上がっていた人間関係に深みが出てきます。 大河、みのり、北村、高須、亜美といった主要キャラは5人つるんでいるということの関係に序盤では唐突さと希薄さがありました。それぞれに独自の人間関係を持っていることが視聴者にも目に見えて理解できたので、5人集まる必要性をそこまで感じ得なかったのが、そう思わせる原因があったのかもしれません。しかしそこが非常にリアルといえばリアルでした。そもそも人間誰かと仲良くなることに特別何かイベントが起きるわけではありません。ふとしたことがきっかけで仲良くなっているものです。どうして仲良くなったんだっけ?とふと今付き合っている友人との馴れ初めを上手く答えられない人もいるのではないでしょうか。だからこそちょっとしたすれ違いを友人内で起こしてしまうのです。その誰しもが経験したであろう葛藤を上手く作品として昇華したのが、竹宮ゆゆこ先生の凄さであって。


前半は和やかな雰囲気の中、大河と高須を中心にそれぞれの恋心を叶えるため、周囲を巻き込んで、ハチャメチャな日々を送る事に終始しますが、中盤から、その空気はいっぺんに崩れていきます。前半から示唆があったものの、みのりが自分の本音を表に曝け出すようになったり、北村は秘めた想いを会長の退陣をきっかけにぶつけるようになったり、亜美は自分が他人の心理に上手く絡めない事に苛立ちを覚えながらも体当たりでぶつかるようになったり、前半では傍観者として見られていた彼らが、一気に話を面白くしていきます。また、能登や木原といった、サブキャラクターも自身の感情に素直に向かいつつあるということを示唆するシーンもあったりして、きちんと細かい所までテーマを浸透させている所に徹底振りを感じました。その辺りは原作のスピンオフで顕著になっているようですが。


後半における主要キャラクターの関係を上手く表したのが、後期OP『silky heart』だったのではないかと思います。OP画は勿論の事ですが、歌詞が登場人物の心理と見事にリンクしているのが、好きなんですね。 後半における雰囲気を主題歌で表現しきっているところに感嘆の念を覚えます。世間的な評価だと、『プレパレード』の方が評価が高いようですが、こういう理由から私としては『silky heart』の方が好みだったりします。サビの盛り上がりがいまいち物足りないという欠点もありますけど

何はともあれ、BD化の噂も出ていたり、前述した竹宮先生の新作も発表されたりと、何かと話題が絶えない作品なので、もう一度じっくり観て見るのも良いかもしれません。